風ふくまで

いつもクルマのことばかり考えています

Le Ballon Rouge

Le Ballon Rougeとは邦題「赤い風船」で知られる、フランスの短編映画である。




この映画、ストーリー自体もさることながら、
50年代のパリを行き交うクルマたちが背景に映り、
60年経過した今となっては興味深い。



■■■



下記はパスカル少年が風船を所持していたため、
バスへの乗車を拒否される場面である。


バスの形もケーブルカーの様で隔世の感があるが、
今はその横をオーバーテイクするCITROENに注目したい。


これは11CVと呼ばれる戦前に設計された乗用車で、
世界初のFF車、7CVに端を発したクルマ。
戦前、戦後のパリでは多く見られたそう。
非合理的なイメージの強いフランス車であるが、
FF車がフランス発という事実は少々意外に感じる。



■■■



さて、風船を諦めたパスカル少年がバスに乗車すると、
風船は自らの意志で少年を追いかけ出す。
そのシーンがコチラ。



風船の背後に映るは、定かではないが、
フロントマスクから想像するに、SIMCAであろう。
SIMCAは30年代にFIATのノックダウン生産に始まり、
70年代にCHRYSLERに吸収され短命に終わったフランスの大衆車メーカー。


今でも古着屋等に足を運ぶとごく稀にSIMCAのキーホルダーが
レジの横で静かにコレクターを待ち続けているのを目にする。


腰の高い車体から想像するに、50年代初頭の設計だろうか。
映画に登場した個体は荷台がついているようだが、
セダンタイプも存在したのだろう。


古いクルマとして、語り継がれるものの多くが、
スポーツタイプやセダンタイプであるため、
このように商用車が映りこんでいる映像は反って貴重なのだと思う。




■■■



続いては、街なかでの一場面である。


手前に映っているのは、RENAULTが手掛ける大衆車、4CVである。



前席側はAピラー側にドアノブが設けられる珍しいタイプで、
Bピラーを中心に謂わば「逆観音開き」のように開閉する点が特徴。
リアエンジンスタイルはフェルディナント・ポルシェの影響だろうか。


また、奥に映っているのは言わずと知れたCITROEN 2CVであり、
この映画から60年程度経過した今もなほ、
パリの顔として変わらぬ愛想を振りまいている。


さて、CITROEN,RENAULTとくれば、PEUGEOTを忘れるわけにはいかない。


以下の写真手前に映るのはPEUGEOT203である。



今のPEUGEOTからは想像し難いが、
戦後間もないPEUGEOTはこのようなアメリカンスタイルの203を販売していた。
日本でもタクシー等に需要があり、相当数の203が走っていたという。
なお、このあと304,504等の名車が登場するのはご存知の通り。




■■■




最後にこの映画を見て思ったことを端的にまとめる。


私はパリ在住でも出身でも何でもないのだが、
1950年代をパリで過ごしたことのある人ならば、
この映画を見て当時の様々な思い出を蘇えらせることだろう。
人々の生活がクルマと切っても切れない関係になった現代社会では、
あの日あの時あのクルマという言葉に表れるように、
様々な記憶がクルマと紐付いて思い起こされることが多いと感じる。
殊にパリにように町並みに大きく変化のない都市では尚更だろう。
この映画はそんな過去の記憶をクルマと共に思い出させ、
懐かしい気分にしてくれる、そんなエッセンスに溢れていると思う。